井生定巳君を悼む　　　　　　　　　　　　　　　岩松斉

　　「神々の憂鬱」という青春座の舞台を観劇した一週間後に井生君の訃報を受けた。
　万物に神が宿るという日本人の深層心理を探求した物語で、ついにはＡＩの神まで現れ、
　物語を面白く描いていた。
　アナログ派だった定巳君だったらどう感じていたんだろうなんて思って観ていた。

　　私が５０年ぶりに故郷へ帰り同窓会などに顔を出し始めた頃、
　井生君が「岩松、舞台に立たんか！」「俺が全責任を持ってやる！」と畳み掛けてくる。

　　その２年前７０才の時に、これも同窓にそそのかされて，１００キロウォークに出て完歩できた。
　絶対不可能と思っていたことができたことで、私の心は舞い上がっていた時だった。
　「よし、やってみよう」と返事した。　

演劇指導風景

　　彼の指導は、「岩松！　お前は滑舌が悪い！　
　口を大きく開けて大声でしゃべれ」だけだった。
　身振り手振りを入れると、「そんなもんはいらん。」だけだった。
　小生、３ヶ月、家で窓を全部閉め、２時間掛け台本を大声で読むことに集中した。

　井生君の葬儀で、６人のお孫さんが、祭壇の前に並び、
　１人ずつ爺さんに言葉を送った。
　さすが演劇一家、見事だった。

　　　小生も定巳君を師匠と仰ぎ、冥福を祈ります。